Global Standard
国際標準とは、製品の品質、性能、安全性、寸法、試験方法などについて、国際的な合意に基づいて定められた規格です。
▼国際標準の重要性
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円滑な国際取引: 異なる国間で製品やサービスを取引する際、相互理解や互換性の確保は不可欠です。国際標準は、これらを円滑にするための共通言語として機能します。
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消費者利益の保護: 製品の安全性や品質を一定水準に保つことで、消費者の利益を保護します。
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技術革新の促進: 新しい技術や製品を国際的に共有し、普及を促進します。
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貿易障壁の低減: 各国で異なる規格が存在すると、貿易の妨げとなることがあります。国際標準は、このような技術的な障壁を低減する役割も担います。
▼国際標準化の背景
国際標準は、産業の発達と国際貿易の拡大とともに、その重要性を増してきました。各国が自国の規格を主張するだけでは、国際的な取引が円滑に行えなくなり、経済発展の阻害要因となります。そのため、国際的な協力のもとで、共通の規格を策定する取り組みが積極的に行われています。
▼国際標準化機関
国際標準化機構(ISO)や国際電気標準会議(IEC)などが、国際標準の策定を担う主要な機関です。これらの機関は、各国の専門家や関係機関の意見を調整しながら、幅広い分野の国際標準を策定しています。
国際標準は、グローバル経済において、ますます重要な役割を果たしています。企業は、国際標準を理解し、活用することで、国際競争力を高め、海外市場への参入を促進することができます。
Management System Standards
マネジメントシステム規格(MSS)は、組織が品質目標や環境目標などの目標を設定し、その達成に向けた仕組みを構築・運用するための規格です。ISO 9000シリーズ(品質マネジメントシステム)やISO 14000シリーズ(環境マネジメントシステム)などが代表例として挙げられます。
▼品質マネジメントシステムの規格化の経緯
1970年代、日本が品質と価格競争力で世界市場を席巻する中、欧米諸国は経済の停滞を打破するため、「品質」に注目しました。イギリス(BS5750)、フランス(NFX50-110)、ドイツ(DIN55-35)、カナダ(CSA Z229)、アメリカ(ASQC Z1-15)など、各国で品質保証に関する規格が制定されました。
しかし、各国が独自の規格を持つことは、国際貿易における技術的な障壁となることが懸念されました。そこで、1979年、国際標準化機構(ISO)に技術委員会TC176が設置され、品質管理と品質保証の国際標準化が始まりました。
TC176は、イギリスのBS5750とアメリカのZ1-15をベースに、国際的な意見を調整しながら、品質マネジメントシステムに関する規格を開発しました。そして、1987年、ISO 9000シリーズが誕生したのです。
ISO 9000シリーズは、世界共通の品質マネジメントシステムの枠組みを提供することで、国際貿易の円滑化、消費者保護、技術革新の促進に貢献しています。
▼環境マネジメントシステムの規格化の経緯
1992年6月、地球環境問題の国際的な解決策を議論するため、「地球サミット」(国連環境開発会議UNCED)が開催されました。このサミットを産業界から支援するため、世界のビジネスリーダー50名で構成される「持続的発展のための産業界会議」(BCSD)が設立されました。
BCSDは、「持続可能な開発」を推進する上で、環境マネジメントの国際標準化が重要であるとの結論に至り、国際標準化機構(ISO)に環境に関する国際標準の策定を依頼しました。
具体的には、BCSDは、
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持続可能な技術の導入・推進には環境の国際規格が重要であること
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ISOがその策定に適切な機関であること
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製品・サービスのライフサイクル分析に関する規格が必要であること
を提言しました。
これを受け、ISOは国際電気標準会議(IEC)と共同で、「環境に関する戦略諮問グループ」(SAGE)を1991年9月に設立。SAGEは、
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持続可能な産業発展を促進するための国際規格のニーズを調査
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環境パフォーマンス/環境マネジメントの標準化に関するISO/IEC戦略計画を策定
することを任務としました。
SAGEの報告に基づき、ISO理事会は1993年2月に環境マネジメント専門委員会(TC207)を新設。
TC207は、その後、環境マネジメントシステムの国際規格ISO 14001シリーズを策定しました。
ISO 9001, JIS Q 9100, ISO 14001, and NADCAP
グローバル化が加速する現代において、組織は品質、環境、そして特定分野における専門的な要求事項への対応が求められています。
以下では、品質マネジメントシステムであるISO 9001およびJIS Q 9100, 環境マネジメントシステムISO 14001, そして特殊工程に関する品質認証プログラムNADCAP の4つの規格の概要を紹介します:
ISO9001
品質マネジメントシステム
ISO 9001は、国際標準化機構 (ISO) が策定した品質マネジメントシステム (QMS) に関する国際規格である。顧客要求事項を満たし、顧客満足度向上を目指すための仕組みを構築・運用するための要求事項を規定している。
ISO 9001:2015 では、プロセスアプローチ、リスクベース思考、リーダーシップといった概念が強調されている。組織は、事業活動全体をプロセスとして捉え、各プロセスのインプットとアウトプットを明確化し、相互の関係性を理解することで、システム全体を効率的に運用することが求められる。
▼認証企業:
株式会社寺内製作所
川崎機械工業株式会社
株式会社草川精機
株式会社KOYO熱錬
株式会社中金
有限会社東洋精機製作所
JIS Q 9100
航空宇宙・防衛産業向け品質マネジメントシステム
JIS Q 9100 は、ISO 9001 をベースに、航空宇宙・防衛産業特有の要求事項 (安全性、信頼性、トレーサビリティなど) を追加した規格である。日本工業規格 (JIS) として制定されている。
航空宇宙・防衛産業は、人命に関わる製品を扱うため、極めて高いレベルの品質保証が求められる。JIS Q 9100 は、ISO 9001 の要求事項に加え、形態管理、変更管理、キー特性管理など、航空宇宙・防衛産業特有の要求事項を規定することで、より厳格な品質管理体制を構築することを目的としている。
▼認証企業:
株式会社寺内製作所
川崎機械工業株式会社
株式会社KOYO熱錬
株式会社中金
有限会社東洋精機製作所
ISO14001
環境マネジメントシステム
ISO 14001 は、ISO が策定した環境マネジメントシステム (EMS) に関する国際規格である。組織の環境パフォーマンスを改善するための枠組みを提供し、環境方針、目標設定、実施、監視、改善などを通じて、環境負荷の低減を目指す。
ISO 14001:2015 では、環境リスクの低減、コンプライアンスの確保、ライフサイクル思考といった概念が重視されている。組織は、事業活動が環境に与える影響 (環境側面) を特定し、環境リスクを評価し、適切な管理策を講じること が求められる。
▼認証企業:
Nadcap
特殊工程認証プログラム
NADCAP (National Aerospace and Defense Contractors Accreditation Program) は、航空宇宙産業における特殊工程 (熱処理、表面処理、溶接など) の品質を保証するための認証プログラムである。
航空宇宙産業の主要企業 (ボーイング、エアバスなど) が共同で設立した Performance Review Institute (PRI) が運営しており、特殊工程の品質管理システム、プロセス管理、試験方法などに関する厳格な要求事項を規定している。
▼認証企業:
株式会社寺内製作所(非破壊検査/熱処理)
株式会社中金(表面処理)
株式会社KOYO熱錬(熱処理)
相関関係
以上の規格は、それぞれ独立した規格ではありますが、密接な関係性を有しています:
▶ ISO 9001 と JIS Q 9100:
ISO 9001とJIS Q 9100は、どちらも品質マネジメントシステムに関する規格ですが、その関係性は、JIS Q 9100がISO 9001を包含する形で、より厳格な要求事項を追加している、と捉えることができます。
ISO 9001は、あらゆる業種・規模の組織を対象に、顧客要求事項を満たす製品・サービスを提供するための基本的な枠組みを提供する、普遍的な品質マネジメント規格です。
一方、JIS Q 9100は、航空宇宙・防衛産業という極めて高い品質保証が求められる特殊な分野を対象に、ISO 9001をベースとして、さらに安全性、信頼性、トレーサビリティといった、この分野特有の要求事項を追加した、より特化した品質マネジメント規格です。
つまり、JIS Q 9100は、ISO 9001が求める品質管理体制に加え、航空宇宙・防衛産業特有のリスクや要求事項に対応するための、より厳格な管理体制を求めるものと言えます。
したがって、航空宇宙・防衛産業に携わる組織は、ISO 9001の要求事項を満たすだけでなく、JIS Q 9100が求める追加要求事項も満たす必要があります。
これは、JIS Q 9100が、ISO 9001を土台として、その上に航空宇宙・防衛産業特有の要求事項を積み重ねることで、より高度な品質管理体制を構築しようとしている、と解釈できます。
このように、ISO 9001とJIS Q 9100は、普遍性と特殊性という、それぞれの規格が持つ特徴を相互に補完し合うことで、より効果的な品質マネジメントシステムを構築することを可能にしています。
▶ JIS Q 9100 と NADCAP:
JIS Q 9100とNadcapは、どちらも航空宇宙産業における品質保証に関わる規格ですが、その対象範囲と目的において違いがあります。
JIS Q 9100は、航空宇宙産業向けの品質マネジメントシステム規格であり、組織全体の品質管理体制を対象としています。製品の設計、製造、サービス提供など、幅広いプロセスにおいて品質保証の要求事項を定めています。
一方、Nadcapは、航空宇宙産業における特殊工程の品質を保証するための認証プログラムです。熱処理、表面処理、溶接など、製品の品質に重要な影響を与える特殊工程に焦点を当て、より詳細な要求事項を定めています。Nadcap認証は、個々の特殊工程の品質管理能力を評価し、認証を与えるものです。
Nadcap認証を取得するためには、JIS Q 9100認証を取得していることが前提条件となっている場合が多く、これは、NadcapがJIS Q 9100の枠組みの中で、より専門的な特殊工程の管理能力を評価するものであることを示しています。
NadcapとJIS Q 9100は、航空宇宙産業における品質保証において、相互に補完しあう関係にあります。JIS Q 9100は組織全体の品質管理体制を確立し、Nadcapは特殊工程の品質を保証することで、航空宇宙製品の安全性と信頼性を高めることに貢献しています。
▶ ISO 9001 と ISO 14001:
ISO 9001とISO 14001は、一見すると品質と環境という異なる分野の規格のように思えますが、実は密接な関係があります。どちらも、組織が目標を達成し、パフォーマンスを向上させるためのマネジメントシステムに関する規格であり、共通の考え方や仕組みが多く存在するのです。
例えるなら、ISO 9001は「顧客満足」という目的地へ行くための地図であり、ISO 14001は「環境負荷の低減」という目的地へ行くための地図です。どちらも、目的地へ効率的にたどり着くために、計画を立て、実行し、評価し、改善するというPDCAサイクルを回すことを重視しています。
また、両規格とも、組織の状況を把握すること、リーダーシップを発揮すること、リスクと機会に対応すること、そして継続的に改善していくことを求めています。これらの共通点は、組織が総合的なマネジメントシステムを構築し、効率的に運用していく上で大きなメリットとなります。
実際、ISO 9001とISO 14001を統合して運用している組織も多く存在します。統合することで、文書や記録の共通化、内部監査の効率化、従業員の意識向上など、様々な効果が期待できます。
このように、ISO 9001とISO 14001は、それぞれ独立した規格でありながら、互いに補完し合い、相乗効果を生み出す関係にあります。組織は、これらの規格を効果的に活用することで、品質と環境の両面において優れたパフォーマンスを達成し、持続可能な社会の実現に貢献することができます。